心臓血管外科は、下記の認定施設です。
- 日本外科学会外科専門医制度修練指定施設
- 心臓血管外科専門医認定機構基幹施設
- 日本ステントグラフト実施基準管理委員会実施施設(胸部・腹部大動脈瘤)
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会実施施設
はじめに
心臓血管外科は、宮崎県立宮崎病院(開院:1921年)の一員として1988年に開設されました。現在は、
- 心臓血管専門医認定医機構基幹施設
- 日本外科学会専門医制度修練指定施設
- 日本ステントグラフト実施基準管理委員会実施施設(胸部・腹部大動脈瘤)
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会実施施設
となり、狭心症に対する拍動下冠動脈バイパス術や動脈瘤に対するステントグラフト内挿術などの新しい術式も取り入れつつ毎年数多くの心大血管・末梢血管の手術を行っています。
常勤医は3名で、外来日:火曜、木曜日 手術日:月曜、水曜、金曜日としておりますが、急患の場合はその限りではなくできるだけ応対しますのでご相談下さい。そのため、患者さんに外来でお待ちいただく場合や手術日の変更をお願いすることもあり皆さんにはご迷惑をお掛けすることもありますが、できるだけ多くの患者さんを受け入れる方針を立て365日24時間体制で診療しています。
対象疾患
当科では、成人のほとんどの心臓・大血管疾患を対象にしています。
具体的には、心疾患では狭心症・心筋梗塞をはじめ弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症)に対して、治療しています。また、必要があれば不整脈手術(メイズ手術)も同時に施行しています。
大動脈疾患では、大動脈解離、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤に対し、開胸手術、開腹手術、ステントグラフト内挿術(カテーテル治療)を行うことが可能です。特に腹部大動脈瘤の患者さんに対しては症例の半数以上の方がステントグラフト内挿術を選択しています。
末梢血管疾患では、閉塞性動脈硬化症、静脈瘤を中心に診療しています。閉塞性動脈硬化症は手術とカテーテル治療(血管内治療)があり、病変に合わせた治療方針を立て治療しています。
手術方針は、疾患に合わせて患者本人・ご家族とよく話し合い、患者さんにとって最適な手術を行うよう努めています。
心臓弁膜症
心臓弁膜症は、心臓の弁(主に大動脈弁・僧帽弁)に問題が発生する状態です。心臓の弁は、血液が心臓の各部分を通過する際に正しく開閉し血液を全身に送り出します。弁膜症は、この弁の機能が正常に働かなくなることを指します。主な原因としては、1)先天性2)老化3)感染症4)心筋症などがあり、症状としては、息切れ・動悸・疲労感・下肢のむくみなどを感じます。弁膜症に対する手術法は、標準的な開胸術(弁置換術・弁形成術)に加えカテーテル治療(TAVI)・低侵襲心臓手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery: MICS)・ロボット手術など多岐にわたるようになってきました。また手術の適応・時期、更に年齢・合併症の有無で、それぞれの症例に応じた対処が必要となってきています。
そのため、近年ではチーム内で深く議論した上で治療方針を決定することが必要となり、ハートチーム(循環器内科・心臓血管外科のチーム)の重要性が強調されるようになりました。当院でも毎週チーム内でカンファレンスを行い重症の患者さんには適した治療方針を決めています。

虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
近年、高齢化・合併症を有する症例の増加が顕著となり、冠動脈疾患の治療は単一の治療法により完結するものではなく、症例にとって最良の治療法を選択、実践する上でハートチームによるアプローチが必須であるという考え方が推奨され、これが標準となってきています。このハートチームによる治療の要点は、
- 至適薬物治療と生活習慣の是正を合わせた治療の概念が確立され、薬物治療の効果が期待できる症例があること
- 機能的狭窄度評価(虚血の評価)の有用性が確立され、虚血程度での治療を行うこと
- 冠動脈病変の評価をスコア化したこと
- 全身のリスク評価指標に基づく治療方針の決定が有用であること
などから、カテーテル治療(Percutaneous Coronary Intervention)、冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Grafting)などの治療法選択の適正化が求められています。
そのため当院では、緊急性の低い狭心症、心筋梗塞に対する治療は基本的にハートチームのカンファレンスで治療方針を決定し、至適薬物治療と生活習慣の是正・経カテーテル治療で治療が困難な場合に冠動脈バイパス術を選択しています。手術術式においても、心拍動下冠動脈バイパス術(Off pump coronary arterial bypass grafting: OPCAB)が盛んに施行されてきた本邦ではありますが、ここに来て改めて人工心肺使用下の冠動脈バイパス術(Conventional coronary arterial bypass grafting: CCAB)の長期成績が見直されてきており、年齢・合併症を検討しハイリスク患者でも治療成績を落とすことなく、予後の改善を目指しています。
運動・労作時に胸の圧迫感や締め付けられるような痛みは気を付けて!!

胸部、腹部大血管・大動脈瘤疾患
大動脈瘤は、人口の高齢化・食生活・生活様式の変化からその症例数は増加傾向にあります。
それらに対応し、従来の開胸や開腹による人工血管置換術はもとより、低侵襲の(開胸や開腹を要しない)胸部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術(Thoracic endovascular aortic repair: TEVAR)腹部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術(Endovascular aortic repair: EVAR)外科手術が行われるようになりその手術数は年々増加傾向です。当院でも、開胸・開腹による人工血管置換術が良好な成績を得ており、更にこれらのカテーテル(TEVAR、EVAR)を行うことで、これまで困難であったハイリスク患者・高齢者にもその適応を拡大してきています。
また、大動脈疾患で特に緊急性の高い大動脈解離という疾患があります。当院は、県内各地から多く大動脈解離症例を受け入れ治療を行っています。大動脈解離の中で手術の必要な症例(Stanford A)でも手術成績は向上し、FET(Frozen Elephant Trunk)法・Stepwise法などを用い長期成績を考慮した弓部置換術の適応拡大にも取り組んでいます。さらに従来はほとんど保存的に経過観察していた大動脈解離(Stanford B)に対しても長期予後改善のためステントグラフト挿入術(TEVAR)も行っています。
大動脈瘤は症状なし、破裂して初めて痛みます

大動脈解離は突然の胸痛・背部痛で発症します

末梢血管疾患(閉塞性動脈硬化症)
閉塞性動脈硬化症(Arterio-Sclerosis Obliterans:ASO)は、動脈硬化が基盤となって粥腫形成、血栓ができ血管が閉塞・狭窄して発症します。特にASOを有する患者における心筋虚血有病率は55%にも及び脳合併症を発症することも多く、重症の閉塞性動脈硬化症患者の生命予後は不良で全身血管病に対する集約的な治療が必要といわれています。ASOの治療は、閉塞した血管の治療以外に糖尿病・高脂血症・喫煙なその生活様式の改善が必須であり、その後にシロスタゾール:血管拡張薬や、スタチン:高脂血症治療薬などの内服に加えるのが基本です。それでも症状の改善が見られない場合に、腸骨動脈領域を中心に末梢動脈インターペンション(PTA)が行われ、更にステント進歩により大腿動脈以下の PTA治療も増えてきております。PTAとは冠動脈と同じように、骨盤部や下肢の末梢血管の動脈硬化による狭窄・閉塞部を細いカテーテルに装着したバルーン(風船)やステント(金属の筒状のもの)を使用して、病変部を拡張させることにより血流を改善させる治療です。そのため、外科的に人工血管や自家静脈を使用した下肢バイパス術の症例数は減少の一途ですが、PTA不可能な症例にはまだまだ必要で有効な手段であります。
歩行時に痛み・下肢の倦怠感歩けなくなります。足の指に痛み・黒く変色したら要注意。特に喫煙者

下肢静脈瘤
下肢静脈瘤は以前の下肢静脈抜去術(ストリッピング)に変わり、小さな傷穴一つで済む血管内焼灼術が主流となってきています。従来の下肢静脈抜去術(ストリッピング)はもとより当院もすでに下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会が認定する実施施設となっており、積極的に高周波(ラジオ波)を用いた下肢静脈瘤血管内焼灼術(radiofrequency ablation: RFA)を行っております。ストリッピングや従来のレーザー焼灼術(endovenous laser ablation: EVLA)に比べて、RFAは術後疼痛や内出血が抑えられるのが最大の特徴で、下肢静脈瘤の多くが血管内治療の適応となり標準術式となっております。
下肢静脈瘤は足のだるさや静脈が目立ちます

終わりに
当科の基本理念
- 可能な限り救急を含め、すべての患者さんを受け入れます。
- 患者さんにとって最適な手術治療を検討・提案し、治療方針を共に決定します。
- 従来の手術治療に加え、患者さんにメリットのある統計的に裏付けられた全国標準の治療を提供します。
当院では施行施設となっていない経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVIまたはTAVR)や人工心臓(LVAD)などが適当と思われる症例ではちゃんとそういった施設へ紹介しておりますので安心して診療¥していただけると思います。
【診療実績】(2024年度)
- 手術数 153件
- 定例手術 105件
- 緊急手術 48件
虚血性心疾患 | ||
CABG | 14 | |
OPCAB | 1 | |
弁疾患 | 30 | |
胸部大動脈瘤 | ||
真生瘤 | 15 | |
解離 | 16 | |
TEVAR | 12 | |
心臓腫瘍+その他 | 2 | |
腹部大動脈瘤 | ||
人工血管置換術 | 17 | |
EVAR | 28 | |
末梢血管 | ||
血栓除去 | 3 | |
Bypass | 2 | |
その他 | 13 |