病理診断科の信念と現状

丸塚 浩助
県立宮崎病院は宮崎県下の医療のLAST BASTION(最後の砦)として、高度医療・急性期医療・政策医療の提供、及び県内医療関係者の研修の場の提供を行なうことを病院の理念としています。我々、病理診断科もその理念に呼応すべく、すべての診療領域に高水準で迅速・的確な病理診断を提供することを目指しています。それを遂行するには最新の知見に基づく検索・追及をしていかなければなりません。病理診断科においては、病理学分野のみならず、医学全般にわたる情報を取り入れ、精度の高い病理診断を行うことは不可欠であり、病理技術も含め宮崎県のすべての診療施設に還元・発信することが重要だと考えています。
当院の病理診断科は、2020年4月現在、病理専門医・研修指導医2名、臨床検査技師7名(臨床検査科所属:常勤6名、任用1名、)及び事務職員2名の総勢11名で、強力な体制が構築でき、皆でサポートし合い、個々で研鑽を積み、診断精度・技術の更なる向上を目指しています。自己研鑽は元より、機器・環境を整えることも重要と考えており、自動染色装置2台(組織・細胞診各1台)・自動免疫染色装置2台(Leica社製、Bond-III)・LBC(半自動、BD社製)等ほか、各職員の使用する顕微鏡も順次最新型に更新しています。
当科のモットーであるATP「明るく(A)、楽しく(T)、ピシャ〜っと!(P)」をエネルギーに笑顔・笑い声の絶えない明るい職場として、年々増加の一途をたどる業務(下記)を遂行しています。今年のテーマは、最善のOptimal方策Tacticsを積極的にActively、迅速にQuickly! 病理のOTAQオタクになって的確な診断情報提供を行うことを心懸けていきます。
病理診断が担う業務範囲はほぼ全科の診療に関わっているため、すべての診療科に対応していかなければなりません。当科では、すべての症例に関してダブルチェックを行い、診断精度向上に努めており、2014年4月より、「病理診断管理加算2」の設定条件以上のチェック体制で診断クオリティを高めています。しかし、広い領域を高いレベルでカバーするのは必ずしも容易ではないため、他施設へのコンサルトや学会・研究会等での情報収集、論文等の最新知見を積極的に利用し、また各学会に症例や研究内容を提示する事で病理診断における精度管理を行っています。さらに当院各診療科とのカンファレンスを行うとともに、学会などへの発表のサポートや他施設との共同研究等も重要な仕事と考えています。
日本病理学会では2015年度より専門医新研修制度が開始され、当科も宮崎大学医学部附属病院病理専門医研修プログラムの連携施設として参加しており、専門医研修の一環として、解剖症例の提供を行っています。豊富な症例を経験することができるので、当科での専門医研修に多数参加されることを期待します。
やる気さえあれば‘みっちり’鍛えて一人前にしてあげます!!
- 参照:宮崎大学医学部附属病院病理専門医プログラム
http://pathology.or.jp/senmoni/45_01_706miyazakidai2018.pdf
業務内容
病理解剖(剖検)
全国的な傾向同様,解剖体数は減少の一途で,年間10症例を確保する程度であり,初期臨床研修・内科学会認定施設等の維持も厳しくなってきています。新専門医認定制度における病理専門医養成ために,宮崎大学のプログラムの連携として病理専修医へ剖検症例の提供・指導を行っています。
剖検の実施は月曜から金曜の8:30から17:30に執刀できるものを基本としていますが,時間外や土日・休祭日にも可能な限り対応しています。基本的には全例CPC(Clinico-pathological conference)を行い,臨床医との協議の末,最終剖検診断を行います。CPCはほぼ毎月1症例,1時間程度で行い,日程は院内掲示版に通知し,多くの科の医師その他の出席を期待して行われますが,実際には担当医他数名に留まっているのが現状です。なお同カンファレンスは卒後臨床研修制度の必須項目であるCPCレポートの一環として,研修医が臨床歴のプレゼン・質疑応答し,各研修医にレポートを提出させることにしています。
組織診断
受付件数は下記表の如く,約5,500件(検体数:約7,800件、組織標本枚数:約47,000枚)で,ここ数年急激な増加を示し,2019年度は受付数,検体数,作製ブロック・標本枚数,術中迅速件数はいずれも過去最高を2年連続で更新しました。病院の性格上,生検診断に比して手術材料診断件数の割合が高く,重篤度の高いものや,合併症などで複雑な病態を呈するものも多く,早急な結果を求められることも常です。また稀少症例なども多く,これらの解析における病理部門への要求度も高くなっていますが,すべての診断において2名の病理専門医によるダブルチェックを行っており,基本的には組織標本が作製された当日(受付の翌日)には報告するようにしています。特殊染色や免疫組織化学染色を要する症例はその結果を後日,追加報告という形で電子カルテに掲載するようにしています。免疫組織化学染色においては,現代医療に対応できるように多種多様な抗体を整備し,診断や病態の理解及び治療に反映できるようにしています。また,他施設で行われた病理診断に対する再評価依頼も多く,他施設と連携を取りながら,地域全体でのレベルアップも念頭において業務遂行しています。難解例では,九州管内のみならず,全国のスペシャリストへ個人的または日本病理学会を介してコンサルトすることで対応しています。
術中迅速診断
迅速組織診断は年間300件強行っており,1検体20分程度で診断報告を行っています。迅速組織診断を行う症例では,可能な限り捺印・擦過細胞診断(保険診療上には算定されないため,下記の迅速細胞診数には含まれていない)も併せて行い精度向上に利用しています。特に,消化管や肺部分切除など機械自動吻合においては,実際の切除断端を最も正確に反映させることができるステープル断端面の擦過・捺印細胞診も行っています。
細胞診断
年間約7,000検体前後で,日本臨床細胞学会認定の細胞検査士1〜2名によるスクリーニング後,約20%の疑陽性・陽性症例及び乳腺や甲状腺の穿刺吸引材料や迅速細胞診は,病理専門医と細胞検査士がのディスプレイシステムで協議し,最終報告しています。2018年度からは細胞診担当技師全員の参加のもと,討論・最終診断を行い,診断基準・診断レベルの統一化,症例の共有を図っており,細胞検査士資格取得前のトレーニングにもなっています。
標本作製のほとんどは, Liquid-based cytology(LBC、BD社)法を導入し,免疫細胞化学へも応用しています。また,気管支鏡検査やCTガイド下生検ではRapid On-Site cytological Evaluation: ROSEを行っており,患者負担軽減に貢献しているとともに,近年増加している遺伝子検索のサンプリングも同時に行っています。
年度 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
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組織診受付数 | 4,422 | 4,187 | 4,723 | 5,108 | 5,006 | 4,952 | 5,204 | 5,451 |
組織診検体数 | 5,841 | 5,574 | 6,385 | 6,943 | 6,784 | 6,657 | 7,192 | 7,802 |
ブロック数 | 15,887 | 12,343 | 13,882 | 14,625 | 14,697 | 14,471 | 16,818 | 17,952 |
組織スライド数 | 32,668 | 30,062 | 33,838 | 40,247 | 38,692 | 38,979 | 43,063 | 47,490 |
免疫染色枚数 | 3,504 | 4,290 | 5,204 | 6,563 | 6,064 | 6,052 | 5,936 | 7,145 |
術中迅速件数 | 246 | 250 | 265 | 292 | 314 | 305 | 341 | 326 |
細胞診受付数 | 6,417 | 5,910 | 6,214 | 6,596 | 6,629 | 6,263 | 6,582 | 6,208 |
細胞診検体数 | 6,839 | 5,205 | 6,546 | 6,973 | 7,047 | 6,746 | 7,064 | 6,691 |
細胞診スライド数 | 9,854 | 8,590 | 8,983 | 9,791 | 9,936 | 9,767 | 10,380 | 10,383 |
細胞診迅速件数 | 160 | 41 | 48 | 53 | 170 | 199 | 289 | 252 |
病理解剖症例数 | 12 | 7 | 10 | 8 | 13 | 7 | 12 | 13 |
臨床各科との症例検討会
ほぼ毎日のように各診療分野とのカンファレンスを開催し,病理診断の根拠となる肉眼・顕微鏡画像を提示しながら行っています。その他の主治医との協議は随時行っています。また,できる限り多くの病理情報を電子カルテ上に展開することを心がけており,手術標本は全例において全体像や割面像、組織標本採取部位,必要症例では病変の広がり(マッピング図)を公開しています。一部の症例では組織像や細胞像も掲載しており,これらを患者・家族への説明にも利用してもらえるように配慮しています。また,他施設検体においては,平成26年度導入のバーチャルスライドシステムを用い,デジタル画像として永年的に活用出来るようにしています。将来的には,全ての症例において,診断根拠となる病理組織・細胞画像をバーチャルスライド化し,電子カルテと連携出来るようにする予定です。このシステムにより病理部門においてもこれらの画像を迅速に活用でき,組織診断及び細胞診の相互の精度管理や癌再発の診断にも利用することが可能となると考えています。
- 剖検所見会(CPC)(不定期、月1回程度)
- 外科手術症例カンファレンス(毎週火曜日17:30〜)
- 婦人科病理カンファレンス(毎週水曜日17:00〜)
- 呼吸器合同カンファレンス(毎週木曜日17:30〜)
- 泌尿器病理カンファレンス(隔週木曜日16:00〜)
- 乳腺病理カンファレンス(隔週金曜日16:30〜)
- 皮膚病理カンファレンス(隔週金曜日17:00〜)
- 腎生検カンファンレス(毎週月曜日15:00〜)
個別項目
学会活動
- 日本病理学会・国際病理アカデミー・日本癌学会・日本血液学会
- 日本リンパ網内系学会・日本血液病理研究会・日本臨床細胞学会
- 国際細胞学会・日本臨床細胞学会九州連合会・日本血栓止血学会
- 国際血栓止血学会・日本血管生物医学会・日本ヒト細胞学会
- 日本臨床衛生検査技師会・宮崎県臨床検査技師会
認定資格
- 日本病理学会認定施設(7014)
- 日本病理学会認定病理専門医・専門医研修指導医
- 日本臨床細胞学会認定施設(0495)・日本臨床細胞学会認定細胞診専門医
- 日本臨床細胞学会認定細胞検査士・国際細胞学会認定国際細胞検査士